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【ズームイン、隠れた名企業 vol.1】「捨てる」の先にある仕事

加藤 直樹

加藤直樹

2026/10/09

今月から新しい連載を始めます。取り上げるのは、誰もが知っている企業ではありません。業界自体があまり知られていなかったり、規模がそれほど大きくなかったり。それでも、社会性と経済性のバランスにおいて、驚くほど優れた実践をしている企業があります。

毎回ひとつのテーマを立て、そのテーマに答えを出している会社を数社ずつご紹介していきます。一社だけを取り上げると「なぜこの会社なのか」という話になりますが、テーマを軸にすると、同じ問いに対して業種も規模も違う会社が、それぞれ別の解き方をしている姿が見えてきます。その違いこそが、読んでくださる方の手がかりになるはずです。

初回のテーマは、「捨てる」の先にある仕事です。

なぜ今、このテーマなのか

前号でも触れたとおり、この夏は各地で豪雨災害が相次ぎました。気候危機という言葉が現実味を帯びるなかで、私たちは「何をつくるか」「どうつくるか」を熱心に語ります。再生可能エネルギー、環境配慮設計、サステナブル素材。どれも大切な話です。

けれど、つくったものは必ず、いつか使い終わります。

そのあとを引き受ける仕事を、私たちはどれだけ知っているでしょうか。
産業廃棄物処理、自動車リサイクル、解体。いわゆる静脈産業と呼ばれる領域は、生活のすぐ隣にありながら、驚くほど見えていません。見えていないだけでなく、長いあいだ「できれば関わりたくない仕事」として扱われてきた歴史もあります。

その領域で、社会性と経済性を同時に成立させている会社があります。しかも、成立のさせ方が三者三様です。
そのうちの一社は、この仕事をひらがな五文字で言い表していました。

会宝産業 言葉を、国境の外まで持っていく

石川県金沢市。会宝産業は、使用済自動車の解体と、中古自動車部品の販売・輸出を手がける会社です。

モノを製造する動脈産業に対して、つくったモノを循環させるのが静脈産業。この会社は、自らを静脈産業のパイオニアと位置づけています。
そして掲げているのが、ひらがなの「あとしまつ」という言葉です。静脈産業のパイオニアとして「あとしまつ」の大切さを伝え、地球規模の循環型社会をつくること。これが同社の目指す未来として掲げられています。

2018年12月、同社は第2回ジャパンSDGsアワードでSDGs副本部長(外務大臣)賞を受賞しました。そのとき近藤高行社長が語ったのは、SDGsの12番目の目標「つくる責任・つかう責任」に加えて、誰かがやらなければならない「後始末の責任」がある、ということでした。

言葉だけなら、きれいごとに聞こえるかもしれません。
しかしこの会社は、それを国境の外まで持っていきます。

国産車は走行距離十数万キロで廃車になることが多い一方、海外では30万キロを走る車も珍しくありません。海外から見れば、廃車になった日本車にはまだ使える部品が多く残っている。同社の輸出事業は、この落差の上に成り立っています。

ただし、ここで止まらなかったのが同社の特徴です。
2024年にはケニアでKaiho East Africa Limitedを設立し、ナイロビで中古パーツのオークションを開始しました。業界初の試みとして、出品されるすべての部品にRFIDタグを付け、エンジンの始動動画や解体前の車両画像を含むトレーサビリティ情報を公開しています。購入者が事前に品質を確認できるようにするためです。

中古部品市場の最大の弱点は、買う側が品質を確かめられないことです。だから安く買い叩かれ、粗悪品が出回り、市場全体の信頼が落ちる。
そこに情報の透明性で手を打った、ということです。

ブラジルでは、ミナスジェライス州の国立工業技術専門学校の中に、自動車リサイクル事業を行うパイロットプラントと研修センターを設立しました。ブラジルでは自動車リサイクルのノウハウがまだ普及しておらず、業界全体で人材が不足しているためです。
学校の敷地に工場を置く。人を育てることを事業の付属物ではなく、事業そのものとして扱っているということです。同社はさらに、2025年度のJICA中小企業・SDGsビジネス支援事業にも採択され、ブラジルで人材育成を伴う製品管理システム導入のニーズ確認調査を進めています。

同社の経営ビジョンには、こうあります。
未来に生きる子供たちに美しい地球を残すために、自動車リサイクル業として静脈産業を確立し、地球規模の循環型社会を創造する企業を目指す、と。

現地に工場をつくるだけなら、それは進出です。人を育てる機関をつくるということは、いずれ自社がいなくても回る状態を目指すということ。
短期の収益だけを考えれば、合理的とは言いにくい選択です。それでも続けているところに、この会社の思想があらわれています。

石坂産業 嫌われた会社が、見せることを選んだ

埼玉県入間郡三芳町。石坂産業は建設廃棄物の中間処理を手がける会社です。
この会社を語るには、1999年から始めなければなりません。

その年、所沢の葉物野菜から高濃度のダイオキシンが検出されたと報道されました。これは結果的に誤報でしたが、地域住民の同社に対する風当たりは強く、農業と産廃は共存できないとして大規模な反対運動が起こります。当時この一帯は煙突が58基も建ち並び「産廃銀座」と呼ばれており、そのなかで最も新しく背の高い煙突を持っていた同社が標的になりました。住民による反対団体が発足し、24時間の監視小屋が建てられ、毎日のようにマスクをした人々が騒音測定器を持って工場周辺をパトロールしたといいます。

同社は1997年に他社に先駆けてダイオキシン恒久対策炉にリニューアルしていました。対策を進めてきたのに標的になった。
反論したい気持ちを抱えながら、同社が選んだのは撤退でも沈黙でもありませんでした。

2012年、同社は「見せる」経営へと戦略を転換します。98%を再資源化する施設と、美しい武蔵野の雑木林を見せることで、取り組みへの理解を促し、認知度を高め、理念や価値に共鳴してもらう。

扱う廃棄物は東京都心からのものが約50%、その他の関東エリアからが約50%。廃コンクリートは選別・破砕して造成工事や埋め戻し材に、木材は製紙用やボード用のチップに、廃プラスチックは紙と合わせて固形燃料になります。産業廃棄物のリサイクル率が業界全体で約52%とされるなか、同社が埋め立てに回しているのは、今の技術では再資源化できない残り2%だけ。その2%をなくすために、大学との共同研究も進めています。

同時に取り組んだのが、里山の再生でした。
三富地区では江戸時代から、雑木林の落ち葉を発酵させて堆肥にする循環農法が行われており、この落ち葉堆肥農法は日本農業遺産にも認定されています。しかし時代を経て雑木林を管理できなくなり、同社周辺のうっそうとした里山は不法投棄の温床になっていました。同社は工場周辺の荒廃した雑木林を借地し、区画を変えながら伐採・更新を繰り返す管理作業を継続することで、武蔵野の里山を復活させるプロジェクトを進めています。

興味深いのは、この取り組みが経営とどうつながっているかです。
里山の整備と産業廃棄物業に関係はあるのか。この問いに対して、同社はこう答えています。産業廃棄物業として処理代をいただき、その費用で地域の環境をつくり、地域と共生できる施設をつくる。それをしっかり伝えて共感を得ることが重要で、里山保全活動を通じて会社を知ってもらうことが、選んでもらえることにつながっている、と。

社会貢献が営業になっている、という話ではありません。
見せられる現場をつくることそのものが、差別化になっているのです。

ナカダイ 廃棄物を「素材」として売る

群馬県前橋市。ナカダイは産業廃棄物の中間処理業者です。1日約60トンの産業廃棄物を受け入れ、そのリサイクル率は99%。産業廃棄物の平均的な再生利用率が約53%にとどまるなかでの数字です。

この会社が独特なのは、高い分別精度を「何のために」使っているかという点にあります。

徹底して分別に力を入れる理由は、「モノ:ファクトリー」というリマーケティング事業のためでした。持ち込まれた廃棄物のなかから「面白そうなモノ」をマテリアルとして厳選し、販売する。扱うモノの多種多様さは、産業廃棄物処理業者ならではの強みです。

廃棄物をリサイクルして原料に戻す、という話ではありません。
廃棄物のまま、素材として売る。信号機、ランケーブル、使用済みの太陽光パネル。通常なら焼却や埋め立てに回るはずのものが、つくり手にとって「出会える素材」として並びます。

さらに同社は、工場を開いています。工場見学は事前予約制で、大人1,000円、子ども500円。約1時間かけて、搬入時と出荷時で廃棄物がどれだけ変化するかを、実際に見て理解してもらう構成です。
無料の社会見学ではなく、有料のコンテンツとして成立させている点に、この会社の姿勢があらわれています。

2024年にはグループの粕川工場を再編し、廃棄物の管理・回収・情報分析から再生資源化、再生できないもののリサイクルまでを同じ工場内で完結させるワンストップ拠点としてサービスを開始しました。顧客企業のGHG排出量削減や資源循環の観点から、従来のように廃棄物を委託・リサイクルするだけでなく、より高いレベルでの資源循環を求める声が高まっているためです。

捨てる側の要求水準が上がったとき、応えられる処理業者はそれほど多くありません。
分別精度に投資してきたことが、ここで効いています。

三社に共通していたこと

業種は近いのに、解き方はまったく違います。会宝産業は国境を越えて追いかけ、石坂産業は地域に開いて見せ、ナカダイは廃棄物を素材市場に載せ替えた。
それでも、三社には共通する構造がありました。

ひとつめは、処理料金をもらって終わり、という構造から降りていることです。
中間処理業のビジネスモデルは、本来は入口で完結します。廃棄物を受け取り、処理し、対価を得る。三社はいずれも、その出口側に新しい価値をつくりました。部品として売る、素材として売る、場として売る。入口の料金だけに依存しない構造をつくったことで、価格競争から距離を置いています。

ふたつめは、見られたくないはずの現場を、あえて開いていることです。
石坂産業は反対運動の渦中から「見せる」経営へ転じ、ナカダイは工場見学を有料事業にし、会宝産業は技術と人材育成の仕組みごと海外に渡しています。閉じることで守るのではなく、開くことで信頼を得る。透明性が、そのまま営業機能になっています。

みっつめは、数字が思想を担保していることです。
98%、99%、そして業界平均53%との差。理念を語る会社は多くありますが、この三社は理念の隣に必ず検証可能な数字を置いています。逆に言えば、数字で語れないうちは、理念は理念のままだということでもあります。

SDGsの目標番号で言えば、三社とも12番「つくる責任 つかう責任」の、あまり語られない「つかったあとの責任」に立っています。会宝産業には17番(パートナーシップ)と9番(産業と技術革新)が、石坂産業には15番(陸の豊かさ)と11番(まちづくり)が、ナカダイには9番と12番が重なります。
ただ、番号を貼り付けて満足してしまうと、この三社から学べることの大半を取り逃がします。大事なのは番号ではなく、「自社の出口を誰が引き受けているのか」という問いのほうです。

私たちは何を持ち帰るか

三社とも規模も業種も違うので、そのまま真似できることは多くありません。
ただ、最小単位で始められることが三つあります。

ひとつめは、自社の製品やサービスが、使い終わったあとどこへ行くのかを実際に見に行くこと。
委託先の名前は知っていても、現場を見たことがある人は多くありません。見に行くだけで、設計や仕様に対する見方が変わります。

ふたつめは、自社に「見せられない工程」がないかを点検すること。
見せられない理由が法令や機密であればそれで構いません。しかし「なんとなく見栄えが悪いから」であれば、そこは改善の余地であり、同時に差別化の余地でもあります。

みっつめは、自社の取り組みを、検証できる数字にしてみること。
98%や99%のような見事な数字である必要はありません。今の実数を測るところから始めれば、来年には比較ができます。

「捨てる」の先にある仕事は、地味です。派手な発表もなく、表彰の機会も多くありません。
それでも、誰かがそれを引き受けているから、私たちはつくり続けることができています。

次号もどうぞお楽しみに。

《参考》
会宝産業株式会社 https://kaihosangyo.jp/
石坂産業株式会社 https://ishizaka-group.co.jp/
株式会社ナカダイ https://www.nakadai.co.jp/

《参照記事》
サステナビリティ認証シリーズ一覧はこちら
SDGs業界研究シリーズ一覧はこちら
SDGsな旬ワードシリーズ一覧はこちら
ポストSDGs時代の選択シリーズ一覧はこちら
ズームイン、隠れた名企業シリーズ一覧はこちら

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《筆者プロフィール》

https://sustainable-world-boardgame.com/facilitator/n-kato

加藤 直樹

加藤直樹

SDGs/ご当地グルメ/旅行が好きです。その好きなことで仕事をしながら、各地域を盛り上げる中小企業やフリーランスの方々を後押しする活動をしています。